The Usual Disclaimers Apply

CGEモデル分析、ときどきDIY&フライトログ(しばしば比率逆転)

的外れな研究不正の指摘: まあ、何というか、ご時世ですから(リターンズ)


●背景---It's Baaaaaack!


前回書いたあとに、corrigendum(リンクはコピー)が出たり、それをみて「世界変動展望」氏がまた新しい記事(2019/8/7)を書いたり、さらには、「日本の事件は白楽以外の人にお任せしたい白楽ロックビル先生が自サイトに掲載してスポンサーをなさったりした模様。



上記blogよりは、wikiに(おそらく氏が)書いたであろう記述の方が詳細で個別に議論できそうか。



https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8F%E8%A8%82%E6%AD%A3_(%E8%AB%96%E6%96%87) (2020/1/3)



 

 







●修正内容


元論文からの修正で、想定するCO2削減量を13.8%とすべきところを、13%(0.8%ポイント、約6%小さい)としてシミュレーションしてしまったので、シミュレーション結果を再掲した。



結果は、当然異なったものになるが、それでもCO2削減量の変更幅自体が小さいので数量的にはほとんど違わない(せいぜい10%)。したがって、定性的にもまったく変更を要しない



(ので、訂正しないよりは訂正した方がいいけど、しかし、個人的には、この程度でコリゲ打つほどか、と思うほど。だって、仮定するショックを6%変化させただけなんだから、結果がどう変わるか・変わらないかなんて、やらなくても想像できるよね、ふつう。)



なお、炭素量が奇妙な値になっていた点も修正されている。何かのboneheadだったんだろう。



#長いから一言でまとめるけど、新しい記事の主張はすべて失当(3年ぶり2回目)



#読むのも面倒くさいだろうけど、書くのは100万倍面倒くさい



 

 





wiki/blogの主張



【失当1】



撤回を回避するための大量改定(mega-correction)なのか?







おそらくは、(a)「原著論文は7ページだが、メガコレクションは5ページ」(白楽blog)、(b)すべての図表の数字が変わっているから、大量改定という判断らしい。が、どちらも、計量書誌学(?)っぽいハード・エビデンスっぽいものに過ぎないっぽい



(いちおう善意に解釈して)誤解の原因は、マクロ・モデルや一般均衡モデル、それらを使ったシミュレーション分析を知らないことからくる思い込み(それは前回も指摘したけど)。i,j=33部門、h=2生産要素の日本経済モデルで、細江ほか(2016, 第6章)のようなもっともシンプルなものだったとしても(h+i+17)・j+h+4=1722本の方程式と同数の内生変数があるわけだから、そりゃあ、全部の値が変わるでしょ、それだけ表も数値も改訂するでしょ、としか。(1722本・個にくわえて、炭素税の計算、合成エネルギー財の計算も入ってくるから、実際はもっと多いはず。)



ページ数が多いのは、丁寧に説明しているから。改訂前後を比較できるように両方掲載しているから、数値部分については2倍の紙幅が必要になるのは当然。

 

 







【失当というより中身をちゃんと読んでいない2】



結果が定性的に変わっている、論理が破綻しているのか?


たとえば、


---wiki払い戻しケースでは・・・炭素税率の水準も他のケースと比べて高くなった。このように・・・政策的インプリケーションの結論には変更はない。」([6] p111、「1.1 結論1(論文 P77)について」より)と公表されたが、訂正公告表-3では訂正前後で払い戻しケースより税率軽減ケースの方が炭素税率が高いため訂正公告の記載は意図的虚偽記載であり訂正公告上でさえ定性的結論が破綻している[5][6]。

wiki---

という指摘は、具体的には、表-3のなかで最右列の炭素税率が、論文中で最も高いと主張されている「払い戻しケース29,223円/t-C」よりも、もっと高い「税率軽減ケース32,842円/t-C」があるじゃないかという点に関してであろう。



結論から言うと、またしても論文をろくに読まずに図表だけを見て(今回はその表さえもちゃんと見ないで)「ハイねつ造、ハイ改ざん」と雑に判断した、ということ。



この誤読は、和雑誌の読解力の問題から来るものか、何らかの偏見・思い込みから来るのか。しかし、「意図的虚偽記載」(wiki)とまで最大限の表現をすることを考えると、この主張の方が、私には「悪意のあるねつ造」に感じられる。



悪意の有無はさておき、さて、なにを誤読したのか。3つ目のシナリオと比較対象とすべきだと主張されている4つ目の軽減税率シナリオは、




  • 「(v)炭素税率軽減ケースでは、先述の負担軽減対象産業の炭素税率を50%軽減する」(本文75ページ、第4.1節末尾)と説明されている。

  • また、「軽減ケースの炭素税率は、軽減対象外産業に適用される税率」と親切にも、表-3の注に書いてくれている。









http://toroku20168.up.seesaa.net/image/Mega20corrections.pdfから抽出、水平になるように修正

(スキャンするときにはちゃんと水平を出してくれ)



つまり、ちゃんと本文なり注なりを読んでいれば(先年の消費税軽減税率導入でわれわれが痛い目に遭った/遭っているように)32,842円/t-Cのフル課税産業と半分の税率の軽減税率産業の2種類の産業・税率があることが容易にわかる。このとき、払い戻しケースとの間で税率を単純に比較できないことは明かであろう。にもかかわらず、である。



 

 





【失当というより、先行研究を理解していない3】



定性的結果が先行研究において否定されているのか?


wiki内の主張:


---wiki炭素税収を家計へ還付する政策(原著論文の"家計への還付"の政策[39])の方が政府支出増に充てる政策(原書論文の"炭素税"の政策[39])よりも目標削減率達成のための炭素税率が下がるという定性的結果も先行研究において否定されている[44][45][46]

wiki---

についても疑義がある。3つの脚注がついているので、一見この3つが「否定的研究」を指すかのように見えるが、違う



まず、[44], [45]は元論文を含む博士論文と審査要旨であって、そもそも、これらをここに入れる理由が理解できない(自分の主張を補強する否定的研究の数を、見かけ上膨らませたかったのか?それはしかし、あまりにも稚拙だから、さすがに...)。



最後の[46]は確かに炭素税に関するCGE分析:



Jensen, J., Rasmussen, T. N. (2000)"Allocation of CO2 Emissions Permits: A General Equilibrium Analysis of Policy Instruments" Journal of Environmental Economics and Management 40: 111-136.



なのだが、1ページ目で、著者affiliationがMobiDK Project(懐かしい!)というところで直ちにフラグが立つ。果たして、論文中の"The heart of the database underlying the model is the 1992 Input-Output (IO) table from Statistics Denmark."という一文で検証終了



(本当は私がちゃんと論文の中身も読んで解説したらいいんだろうけど、言いがかりに返事をするだけなら十分でしょ。自分で資料を集めて考えて判断することなどしない当該ブログのコメント欄に出てくるような人がいるので念のため書いておくけれども、)1992年のデンマークの政策分析結果を、2000年の日本の政策分析にあてはめて考える人はいないよね。もちろん、温暖化問題が超長期の問題であることは承知。



もし、こういう先行研究の傾向を論じるなら、自分で数十の研究をまとめるとか、サーベイ論文に言及するものなのよ。ただの生兵法。



 

 


【失当というより根許レス4】



「博士論文・論文等10報以上に結論・主旨・大部分の分析結果の破綻が生じ、撤回相当となっている」のか?


もう、かなり、付き合いきれない感じになってきているのだが、まだまだある。


---wikiこの大量訂正により筆頭著者が約5年間に発表したほぼ全ての研究発表である博士論文・論文等10報以上に結論・主旨・大部分の分析結果の破綻が生じ、撤回相当となっている[37][6][2][41][44]。

wiki---

すわ、最後の最後に「撤回相当」とされる根拠・理由や裁定書が出てくるのかと思ったら違った(まあ、想像つくよね)。



例によって、脚注[37],[6],[44]は当該論文、訂正、博士論文を指すので根拠を与えない。[2]と[41]の2つあるように見えるものは、実は同一記事で、白楽ロックビルに自分で(?)書いたもの(https://haklak.com/page_FFP_heisei-1.html)。なんじゃそれ? (*_*)



で、結局、「撤回相当」の根拠というのは、「COPEガイドライン」を唯一絶対の規範であると「オレが信じた」からとしか思われないし、そのガイドラインに反しているかどうかの判定も、「オレが決める」で判決を下しただけのことよね。なお、そのガイドラインについては、当該wikiには、


---wiki実際の運用では研究の主旨や結論に抵触しない範囲で大量訂正するという以外の明確な基準はなく、出版社の裁量で決まっている[3][4][5][6][7]。

wiki---

と書いてあるのだが、そもそも『行政計画』はこの出版社の規範を採用しているの?(wikiを鵜呑みにするな」は格言としても。)



さらに、「10報以上に...結果の破綻」と指摘する以上、具体的にどの論文がどのように影響を受けるのかを明示しないのはフェアではないだろう。もし本当に問題が存在するというなら、印象操作と誤解されないためにも、手抜きしてはいけない。



 

 





【失当というより想像力・感情過多?5】



日本経済学会の討論内容を聞いたの?


白楽ロックビルの方の記事:


---https://haklak.com/page_FFP_heisei-1.html

さらに原著論文[35]でさえ、日本経済学会での発表(博士論文にその詳細掲載[36])において極めて基本的な情報である二酸化炭素削減率を不適切に扱った事を注意され修正したものであった[37]。

https://haklak.com/page_FFP_heisei-1.html---

とあるので、そんな「注意」される光景があったのかしら、とびっくりする。しかし、[37]のリンク先は科研報告書:


---https://archive.is/SAaYC#selection-223.70-223.131

専門家との意見交換を行ったところ...不十分な点が発見されたため、加筆・修正を併せて行った。

https://archive.is/SAaYC#selection-223.70-223.131---

というものであり、blog記事の日本経済学会での発表...において...不適切に扱った事を注意され」たという生々しい裏事情(ホント?)が読み取れない京産でやったJEAに出席してたの?これは[要出典]よ。



文章が妙に感情的というか扇情的、ゆえに、学術的ではない。上記、「極めて基本的な情報である」(二酸化炭素削減率を)「不適切に扱った」とかいう単語選択に悪意を感じる。前者の副詞、または、この全体はなくても十分だし、後者も、まるで何か細胞の標本や証拠画像を操作したような書きぶり。



せいぜい、「削減率について誤まった値を仮定した」で十分。こういう一つ一つの情緒的で非学術的、そして角度のついた主観的記述が、研究公正活動にコンタミをもたらすことを理解していない。



 

 





【おまけ: チェリー・ピッキング



そういえば「重複発表・業績水増し」の件はどうなった?


前回の指摘事項のいわゆる「重複発表・業績水増し問題」(たとえばhttp://nieskaizan.doorblog.jp/archives/19863244.html)については、先生方がコリゲ(112ページ)に親切にも非業界人向け注を付けてくださっているのですが、無反応ですか?



都合(何のための都合?)の良い部分だけ指摘するのは、チェリー・ピッキングに該当しないのですか?






出典: https://archive.is/SAaYC#selection-223.70-223.131より切り出し



 

 







●結語---疲労感とともに(再度) ┐('~`;)┌


wikiとblogが別個人によって書かれていたとしても、お互いの記事にある、ふわふわとしたエビデンスっぽいものや、思い込み、誤解、あるいは、個人的恨みでもあるのかと思うような(「小学生レベル」、「小保方晴子氏より悪質」等(白楽blog))学術的議論にはそぐわない不必要に攻撃的な記事同志で相互に依存している以上、共同で責任を負うべきものであろう。結局、タマネギの皮をむくように、全部むいたら何も残らない、というのが2回記事を書いた感想。



「13.8%」は、たしかにミスだが、そのミスの重大性を正しく理解できない人がまっとうなwhistleblowerにはなれない。ただの火事場騒ぎの野次馬。前回も書いたと思うが、マチュアができる仕事じゃないのよ」というメッセージを贈りたい。図表をeyeballingして「研究不正、一丁上がり!」は有害、よくて無意味。



研究公正活動を止めろとは(明示的には)言わないけど、せめて、1回ちゃんと研究活動を自分で一通りやって、それから再開したらいかがか。あるいは、せめて記事の公開前に白楽先生とかJATdS先生に添削してもらうとか。



もちろん、研究不正をただす営みはとても大切だが、しかしながら、あるいは、それゆえに、雑な吟味に起因する数々の(最大限善意に解釈したとしても)誤検出は、S/N比を悪化させるばかりで有害。それもわからない人(達)なのか。白楽先生にいたってはサイト掲載で裏書きまでしてしまっている。氏が原典にろくに当たっていないのと同様に、白楽先生は氏の投稿内容を確認していないのか?



どう考えても彼らにとっては経済学は異分野なのだから、十分な調査・確認なしに突撃したら間違いを犯さないで済むわけはない。それだけに手抜きは許されないし、必要十分なだけ真面目にやる、とくに、他人を告発するのなら



記事を書いた氏もそうだけど、いまどき、「自分が管理しているblogに書く自由を与えただけだから自分に責任はない」なんて言い訳(をするかどうかは知らないけど)は通じない。「世界変動展望は快楽殺人犯である。警察が捜査せよ。」というblog記事を見たときには、まあ、そこまで言わんでも...と思ったけれが、事ここに至ったら、発信者情報開示から名誉毀損案件ぐらいか、とか頭をよぎる(親告罪なので外野がとやかく言うことではないね)。



このように少なからぬコンタミがあることがわかった以上(実は前回から知ってたけど)、今後は、氏の研究公正活動の成果をそのまま鵜呑みにできそうにないし、また、監視の目を注ぎつづける必要がありそうである。当然、過去に遡って、同様の手抜き、主観的決めつけ、誤読等をしていないかという目で活動成果を再検証する必要があろう。