The Usual Disclaimers Apply

CGEモデル分析、ときどきDIY&フライトログ(しばしば比率逆転)

日韓貿易における化学製品の輸出管理厳格化の影響




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日本から韓国へ輸出する化学製品3品目について、輸出優遇措置を取り消すという話が持ち上がったので、この政策変更を一種の貿易円滑化政策として捉え、その影響がどんなものかと調べてみる。







レシピ


例によってCGEモデルを使うことにする。レシピは、




  • GTAP10(ちょうど今月頭に正式リリース)

  • 細江・我澤・橋本(2016)を世界貿易モデルに拡張したCGEモデル




なお今回は、MelitzもFDIもなしの、プレーンなモデル。



ただし、問題の性質上、




  1. 輸出優遇措置の取り消し」をモデルの中でどのように表現するか

  2. 「化学製品」全体ではなく特定3製品(フッ化ポリイミド、フッ化⽔素、レジスト)のみに対する輸出規制をどう表現するか

  3. 影響を受ける「半導体産業」についても、実際、電子産業のごく一部のはず




という3つの課題がある。



1.については、いずれも仮想的に(a)輸出税が課されたものとする(仮に50%とした)場合と(輸出税シナリオ)、(b)韓国の電子産業の全要素生産性(total factor productivity, TFP)が低下(0.065%とした)すると仮定する場合(TFPシナリオ)の2種類のシナリオを用意する。



なお、どちらの場合も韓国の電子産業の生産量は同じだけ(0.137%)低下する(ように、TFP低下幅を調整)。輸出税率50%というのもあくまでも仮の数字であり、ほかのどんな数字でも程度問題であって、出てくる質的な含意は基本的に同じ



2.については、よほどのデータと、気力、体力、時の運(?)がない限り無理なので、ゴメンと謝ることにする。ただし、韓国の産業連関表を使って、どの程度、粗いカバレッジになっているかは確認しておく。



3.は、GTAP9を使っている場合にはそこそこ深刻な問題になったけれども、GTAP10になったときに、(旧)電気・電子産業(旧ele)が電子産業(ele)と電気機器(eep)に細分化されたので解決。まるでこの問題が発生するのを予知していたかのような改訂。




結果



大まかに言えば、今回の輸出管理厳格化の影響が、TFPの低下として現れるならば、悪影響はほとんど韓国国内にとどまる。そうではなく、輸出税として現れるならば、ずいぶんと大きくなる。









TFP低下と輸出税による生産量の変化率(%)


輸出については、TFPシナリオでは、韓国が大きく輸出を減らし、その穴を、日本をはじめとする主要5地域がだいたい同程度の輸出拡大によって。一方、輸出税シナリオでは、国内でだぶついた化学製品を利用して日本が大幅に電子製品輸出を拡大し、韓国のみならず、ほかの地域からの輸出も減る。(マグニチュードが一桁違うことには注意。)




TFP低下による輸出の変化額(百万USD)




輸出税による輸出の変化額(百万USD)

輸入で見ると、韓国が抜けた穴は、だいたい他の国からの輸入(と、自国内での増産)で埋められるので、供給不安はあまりなさそう。ただし、輸出面で指摘したように、誰が穴を埋めるかは大きく異なる。







TFP低下による輸入の変化額(百万USD)




輸出税による輸入の変化額(百万USD)

最終的に、どこの国の消費者が影響を受けるかというと、韓国は当然としても、日本も同額程度の実質消費の減少が予想される。ただし、両国間の経済規模がかなり違うので、対GDP比で見ると、韓国が被る影響(韓国GDPの0.00152%)は、日本のそれ(日本のGDPの0.00034%)よりも遙かに大きい。なお、これら2国以外は、貿易転換効果から、多少なりとも利益を得る。






TFP低下と輸出税による厚生効果(実質消費の変化)(EV, 百万USD)

感応度検査については補論参照。




参考文献