The Usual Disclaimers Apply

CGEモデル分析、ときどきDIY&フライトログ(しばしば比率逆転)

消費税軽減税率に関する2つの評価基準

先日SPA!のアンケートが回ってきて、「おお、世間(SPA!限定)からは、私も経済学者としてみられているのね」と自分を見直しました。



それはともかく、調べていて議論の中で1つ変だなぁと思ったことがあるので、そろそろ話題として枯れてきたこともあり、メモしておきます。



消費税の軽減税率がなぜまずいのか、という理由の中で、


高所得者の方が(絶対額で見て)たくさん減税されるから」




というものがありました。



例えば、





一方、そもそも、消費税の短所の1つとして、




低所得者の方が(支出に占める割合で見て)たくさん税負担するから」




ということ(いわゆる逆進性)が広く指摘されています。





この視点で論じているのは、たとえば、安倍首相の答弁で、


「絶対額ではなく比率で見るべきだ。低所得者の収入に対する消費税負担の割合は、高所得者よりも大きく引き下げられる」






あるいは、橘木先生の経済教室です。





...額で評価すると軽減税率は逆進性対策として機能していないようにみえるかもしれないが、率で評価すると確実に逆進性の緩和に貢献している。額にこだわるか率にこだわるかは人により異なるだろうが、筆者は額よりも率を優先して、軽減税率は逆進性の緩和に一定の効果があると結論づけている。







ただ、2つの判断基準の両者に同時に触れる言説はあまり多くないようです。私の調べ方が悪いのかもしれませんが、さきほどの橘木先生の経済教室論文と、







は発見できましたが。橘木論文では、絶対額と負担率の両方に触れつつ、負担率で評価するべきという論旨です。一方、櫨論文では、


...昔からエンゲル係数が生活水準の指標として使われているように、所得水準が高いほど消費支出に占める食費の割合が低くなる傾向がある。...従って食料品の税率をゼロにしたり低税率にしたりすれば、消費税の逆進性を弱めることができるはずである。




しかし、軽減税率は高所得者にも適用されて負担軽減となるので、金額で比較するとむしろ高所得者の方が軽減額は大きくなってしまう。...

というようにアンビバレントなようです。






後者の逆進性に注目した考え方の方が、個人的には、ポピュラーに思われるので、前者の絶対額を持ち出すのはかなり違和感があります。もし、前者である税負担の絶対額を判断基準に使うならば、その人は、「高所得者の税支払額がより大きくなるから、それゆえに消費税自体には貧しい人を優遇する効果がある」と考えていることになりますが、本当に彼らはそう思っているのでしょうか。そういう話は(消費税導入時の1989年から考えても)あまり聞かないですよね。



専門じゃないので、財政の分野では当然の何かを見落としてるんですかね、私は。





なお、私個人としては、軽減税率は面倒くさいというその一点で、フラットにしてしかるべしと思います。念のため。