The Usual Disclaimers Apply

CGEモデル分析、ときどきDIY&フライトログ(しばしば比率逆転)

なぜCGEモデルがDSGEモデルと間違われるのか




訳書p. 125で"CGE"に言及されていた。


 こうした合理性に刺激されて、アメリカのFRBは、経済をシミュレートするために、計算可能一般均衡(CGE)モデルという手の込んだモデルの構築に乗り出した。このモデルは、原理的にはアロウ=ドブルー・モデルに似ているが、消費者などの経済各部門について大きくまとめた集団をとっているという点で、単純化されたものだ。

とまあ、ここまで読むと、「FRB云々」以外は、いわゆる(多部門の)応用一般均衡モデルを頭に浮かべていてもそれほど違和感はない。しかし、続いて、


このモデルは金融システムが完璧に機能すると仮定しており、そのため銀行やヘッジファンドのような中間の業者を気にする必要がない。モデルの目的は、経済の均衡が、政策、商品価格などの変化にどう反応するかを予測することにある。

となっていて、これはさすがに、"CGE"というには何か変な感じ。(Financial CGEというのもあるけれども。)そうすると、元のところに帰って、そもそも「FRBのCGE」っていうのが違和感。ここでいう"CGE"というのは、金融政策のためのDSGE/RBCじゃないかと。もちろん、両者は、従兄弟同士みたいなものだが。



 FRBのwebでググってみたら、たしかにCGEをやっているらしき人がいて、こんな論文も引っかかるけれども、検索結果の大勢からは、ここで述べているモデルは、どうもやはりDSGE/RBCのよう。ついでに、昔は、DSGE(あるいはS(D)GE)は、確かに、"CGE"と呼ばれてもいたよう。たとえば、


はタイトルからして"CGE"だが、中身はいわゆるDSGE。だから、OrrellがDSGEとCGEを取り違えること自体はあり得ることなのだが、しかし、注5(訳書p. 290)で、


に言及している。Economistの原典を見ると、そこでは、


Leif Johansen, a Norwegian economist often credited with building the first CGE model, put his handiwork to use at Norway's planning ministry.

...

The World Bank has since cut these figures drastically, in part because the ambitions of the Doha negotiators have fallen short of the bank's expectations. One estimate made last year had cut the increase in global incomes to $95 billion and projected 6.2m people might instead move out of poverty. But even as they curb their enthusiasm for Doha, proponents of freer trade argue that CGE models do not show their cause to its best advantage.

ということなので、そこではは確かに(多部門モデルである)CGEモデルなわけ。Orrellは混同している。



 そのほか、注37では"DSGE"に言及している。本文p. 136では、


ヘッジファンドは、エコノミストが好むCGEモデルを使わず、比較的単純だが堅牢な取引戦略の方を好むのだ。

とあるが、さすがに、これもDSGEを意味すると解するほかない。ところで、如何にDSGEが短期のマクロ・モデルとはいっても、ヘッジファンドが考えるようなタイム・ホライズンとはかけ離れている気がする。証券価格の瞬時ないしせいぜい毎日の値動きが彼らの関心事だろう。(彼らにとっての)長期的なマクロ・トレンドを把握するという以外に、DSGEによる予測が役に立つとは思えない。



 もちろん、CGEにもDSGEにも限界や欠点はあるから、「当てにならない」というOrrellによる批判の類いには、我々はつねに耳を傾けるべきではある。ただ、それはそんなに新しい批判でもないので、それ自体はまあ、そうだね、という感じ。



 他の部分については、CGEとDSGEを混同していることと同様に、経済学に関する理解が不完全なまま批判を展開しているところがまだあるのではないかと考えて、慎重に読み進めることにする。(もちろん、もちろん、上で指摘した混同が唯一の間違いかもしれないが。)




原著